一般社団法人 北海道まちづくり協議会

北まちブログ

2019年1月11日(金)

【レポート】平成30年度 まちづくり研修会

平成30年11月13日(火)、北海道経済センター8階にて平成30年度まちづくり研修会が総勢75名様のご参加をいただき開催されました。

 

最初の講演は、国土交通省北海道開発局事業振興部都市住宅課課長の篠宮章浩氏から、「北海道における立地適正化計画とまちづくり」というテーマでご講演頂きました。前半は、「都市の現状と課題」の分析、国土交通省が推進する「コンパクト・プラス・ネットワークの推進」についての具体的な施策、「北海道の現状と北海道総合開発計画」及び「立地適正化計画の制度と都市のスポンジ化対策」について概括的にお話頂きました。地方都市、特に5万人クラスの小規模都市では人口減少と高齢化が著しく、コンパクトシティ化に取り組むことによって、生活サービスの維持や行政コストの縮減と固定資産税の維持を図ることが急務であるとのことでした。もっとも、コンパクトシティ化推進は郊外を切り捨て、人々に住まいや働き場所の移転を強制するものではなく、「これ以上の新たな市街地拡大はしない」という合意形成からはじめて、緩やかな規制と誘導策で、時間をかけて都市の構造を変えていくものであることも強調していました。また、コンパクトシティ化を推進するにあたって低未利用の空間が相当程度発生するという「都市のスポンジ化」の対応も検討する必要があり、「立地適正化計画」を上手に活用すべきことが推奨されました。北海道においてコンパクトシティ化を推進するにあたって、北海道の強みである「食」・「観光」・「エネルギー」等の「生産空間」を支えるまちづくりを目指すべきであると力説されていました。後半は、「コンパクトシティの推進等に係る支援事業と整備事例」として、名寄市、恵庭市、釧路市、稚内市の各取り組みについて具体的な事例の紹介がありました。具体的には、名寄市については中心市街地の活性化を目的とした交通結節点に複合機能を導入した拠点整備の事例、恵庭市については複合機能を導入した再開発と区画整理の一体的整備による交通結節機能の強化と拠点の事例、釧路市については都市の中心拠点において民間施設を賃借して拠点施設を整備した事例、稚内市については鉄道駅と隣接する複合施設を再開発等により一体的に整備した事例の紹介がありました。

 二人目の講演は、遠軽町総務部地域拠点施設準備室参事の今井昌幸氏から、施策・事例紹介として「中心市街地に新たなにぎわいを~都市再生タスクフォースによる取り組み」という演題にて、遠軽町における取り組みの紹介がありました。

遠軽町の課題の分析から始まり、地域の具体的な課題に応える形で、若手職員が中心となって様々なアイディアを出し合った上で都市再生整備計画が立てられ、具体的な計画として、芸術文化活動の拠点施設整備の要望や老朽化した公共施設の建て替えの必要を踏まえて(仮称)えんがる町民センターの建設が決定されたこと、JR石北線の維持・存続のため鉄道広場の整備事情が決定されたこと等が紹介されました。

三人目の講演は、一般社団法人再開発コーディネーター協会調査研究委員会委員長の影山浩氏から、施策・事例紹介として「人口減少社会の再開発の方向性についてのケーススタディ」という演題にて、これまで10年以上にわたって関わってきた再開発事業の調査研究活動の経験を踏まえ、高齢者福祉施設等の導入について実施したアンケート結果の紹介や、具体的な事例ヒアリング結果の紹介を頂きました。高齢者福祉施設等を整備することで結果的に商業床の面積が少なくなり賑わいの創出効果が薄くなるとの懸念も示される一方で、人口減少社会・少子高齢化社会における「持続可能な都市構造」への転換における都市機能の集積手法として一定の評価も得られているとのことでした。また、具体的な事例ヒアリングとして、恵庭市西口地区、稚内駅前地区、多賀城駅北地区(宮城県)、大曲通町地区(秋田県大仙市)、柳ヶ瀬通北地区(岐阜県)、岐阜駅西地区、三田駅前Bブロック(兵庫県)、栄・常磐地区(長崎県佐世保市)での調査結果の報告がありました。

 パネルディスカッションは、3名の講演者をパネリストに迎えて、株式会社ドーコン都市・地域事業本部総合計画部参与の石塚雅弘氏をコーディネーターとして実施されました。

石塚氏から、パネルディスカッションにあたって、①街の中心拠点に求められる機能、②中心拠点の整備にあたっての資金調達・事業計画をどのように進めていくのか、③拠点形成にあたって合意形成をどのように進めていくか、④中心拠点を作った後にどのようにして維持継続させていくのか、の4つの論点に整理した上で、順次、各パネリストから意見を拝受する形で進められました。

①街の中心拠点に求められる機能については、影山氏からは、地域の課題をしっかりとらえて課題を解決する方向で検討することが有益である旨の意見が示されました。今井氏からは、郊外施設との競合の可能性も考慮して計画を立てる必要性があることなどの合併市町村ならではの検討課題が紹介されました。篠宮氏からは、北海道では広大な生産空間の拠点としての発想で中心拠点の機能が考える必要があり、産地直売所を整備する等して地域の産物を上手く情報発信することが提案されました。


②中心拠点の整備にあたっての資金調達・事業計画をどのように進めていくのかについては、今井氏からは、利用できる様々な補助金を検討することの重要性が力説されました。その他、事業リスクを軽減するために立地適正化計画を作る手法を検討したり、地方創成事業を利用する手法も紹介されました。

③拠点形成にあたって合意形成をどのように進めていくかについては、今井氏からは、ホームページでパブリックコメントが閲覧できるようにし、関係している団体に対して説明会を実施したり、出前講座を行っていることについての紹介がありました。その他、地元主催のワークショップを実施する等して地域の課題を地域の関係者みんなで解決するという発想で進めていくことの重要性が示されました。

④中心拠点を作った後にどのようにして維持継続させていくのかについては、今井氏からは指定管理者方式を行い民間の活力を導入していること、篠宮氏からは行政の方で5年に一度計画を見直していること、影山氏からはテナントが退去したことで管理運営に支障をきたした事例の紹介がありました。

最後に3名から総括の意見を頂きました。
今井氏からは、中心市街地で吹奏楽の音色が聞こえるような街にしたいとの抱負が語られました。
影山氏からは、地方都市の再開発はストック活用がまず検討されるべきであり、民間のやる気のある人の考えを行政が支援する形が望ましい旨の提案がありました。
篠宮氏からは、背景には生産空間があり拠点が失われると生産空間も衰退するので、生産空間を支えるまちづくりの重要性が改めて強調されました。

研修会の最後に岡本浩一副会長から閉会の挨拶がありました。岡本副会長からは、コンパクトシティ化推進の一方で自動運転を活用したまちづくりの方向性についての問題提起もありました。

13時に開演し、16:50に終わるという長時間の研修会でしたが、まちづくり制度についての概括的な説明のみならず、具体的な事例紹介、及び各講演者からの意見に至ることで、様々な制度について具体的な活用方法を理解することができ、地方都市の中心拠点作りの実務に携わる上での実践的な知識を身に付けることができました。今後とも同様の研修会があれば是非参加したいと思います。また、制度設計や合意形成にあたって、法律家の関与の必要性も実感いたしました。今後、法律家としてまちづくりに関する情報発信も積極的に行っていきたいと思います。

[レポート:札幌英和法律事務所 弁護士 田中康道]