令和元年11月13日(火)、北海道経済センター8階にて令和元年度まちづくり研修会が総勢104名様のご参加をいただき開催されました。
今年度の研修会はテーマを“人口減少下での住宅施策とまちづくり”と設定し、公的住宅や住宅施策をまちづくりにどう生かすかにスポットをあて、北海道立総合研究機構(道総研)と当協議会の共催で行いました。
基調講演は道総研建築研究本部 北方建築総合研究所の松村博文副所長から「住宅施策は今後のまちづくりのエンジン」と題し、長年の研究成果のストックを背景とした新たな視点の紹介を行いました。
豊富なグラフやマップを読み解き、人口減少は避けようのない事実なのだが、巷間で交わされているような類型的な見方ではなく人口減少・超高齢化は悪いことばかりではないという読み解き方、まちづくりに共通解はなく痛みをともなうオリジナルな施策が必須であること、その中には災害安全性からまちづくりを見直すことが効果的な場合もあること、
50年後のふるさとづくりのためには住宅施策の戦略的な活用が重要なこと、など視覚的にも理解し易い基調講演となりました。
続いて施策紹介として、北海道建設部住宅局住宅課計画始動グループの菅原誠主幹から「公」の切り口で「多様な地域の課題を踏まえた公営住宅の整備、活用について」と題して公的住宅の施策の変遷と今後について、北海道建設部住宅局建築指導課建築企画グループの渡邉純一主幹から「民」の切り口で「良質な民間住宅ストックの形成に向けて」と題して空き家対策や既存ストックの転用・活用など多様な施策について、それぞれご講演頂きました。
休憩の後、施策・事例紹介として、恵庭市企画振興部まちづくり拠点整備室の岡田貴裕室長から「恵庭市のまちづくり・住まいづくり」と題してコンパクトなまちづくりに向けた区画整理事業・市街地再開発事業やガーデンデザインプロジェクト、官民複合施設「えにあす」などの概要と効果の紹介を頂きました。
同じく施策・事例紹介として、UR都市機構東日本再生本部まちづくり支援部の折田茂穂部長からは「地域活性化に向けたUR都市機構の取り組み」と題し、連鎖型都市再生プロジェクトやUR賃貸住宅の役割の変遷、災害復興の取り組み、コンパクトシティモデル都市への取り組みなど豊富な事例の紹介を頂きました。
後半は、北海学園大学教授の岡本浩一氏をコーディネーターに、5名の講演者の方々と意見交換を行いました。
冒頭に講演者の方々の居住歴や業務経歴をそれぞれのバックボーンとしてご紹介頂き、「住み続ける」「公的住宅」「空家」をキーワードに話を進めて頂きました。
まちに住み続けるための拠り所として「サードプレイス」「セカンドプレイス」「2.5プレイス」という視点が皆さんから出されました。
菅原氏と渡邉氏から、道職員は転勤があり長く住み続けることはないが、短い期間で環境の価値を見出すこと、家を守る家族にもセカンドプレイスがあることの大切さを体験上の感想として頂きました。
岡田氏からは「えにあす」を事例に、サードプレイスには①誰でも立ち寄れる雰囲気、②無料か少額であること、③新たな出会いが生まれること、の3つが必要であり、図書館なのに子供がうるさいという方もいるが「えにあす」はそういう場所なのだという観点が、また折田氏からは創成スクエアでは公共施設の広場をどう作るかという視点で取り組んだことが紹介されました。
松村氏からはサードプレイスの条件として①場所があること、②運営は行政が行わないこと、③運営組織を計画段階で作ること、の視点を挙げて頂いたうえで、昔は道路の砂利は行政が運んできて積み下ろし、地元の人の手で均していた時代があった、人口減少下ではそういう発想もあるのではないかという意見を頂きました。
この後、様々な話題で活発な意見交換が行われましたが、その中からいくつかの視点を書きとどめます。
〇古い公営住宅が残っているまちはチャンスがある、建て替え・移転・新しい土地利用が可能になる。
〇道営住宅は22,000戸のストックがある、集約化した時には余剰地が生まれる。
〇既存の民間賃貸住宅を活用できないか、「民間賃貸住宅に空きがあるのに、なぜ公営住宅をつくるのか」という意見も出る。
〇民間賃貸住宅にはある程度の空室率は必要ではないか、10%程度の空きがなければ健全な市場とは言わないのではないか。
〇かつての移住入居はリタイヤ層が田園住宅に移ってくるものだったが、今は「おためし暮らし」のイメージではなく、子育て層が転職をして移住してくる堅実なものになってきている。市場に出てこない、潜在空き家の活用が課題。
〇子育て層のために戸建ての賃貸を市場に出すことは大切で、そこに行政の支援があってもよい。
〇人口減のまちでは、空き家が更地になることは悪いことなのだろうか。2宅地を1住戸で使う豊かなまちとも言えるのではないか。
〇2100年に日本の人口は4,700万人になるだろう。明治初期ぐらいの人口なのだが市街地は圧倒的に広がり、災害危険度の高いところにも広がってしまった。インフラコストの観点だけでコンパクトシティ化するのは難しく、災害危険性が切り口になるのではないか。
終盤、講演者の方々に、当協議会に期待するものについてのご意見を頂きました。
・公的事業が行き詰った時に実務的な打開策で動かしてもらったが、そういう所を期待する。
・行政の中に技術職が少なくなってきた。若手職員の背中を押してくれることに期待する。
・行政が行うことに効果の見える化ばかりが求められているが、10年掛けて作っていくベースの部分はなかなか目に見えてこない。そこの提案をしてもらうことが良いのではないか。などの貴重なご意見を頂きました
最後に当協議会の髙森篤志常務理事から挨拶をさせて頂きました。共同開催は初めてだったが準備段階の意見交換が有意義であったことを振り返り、また防災の観点のお話が印象深く、防災施策は都市計画と合わせて考えることではないかという問題提起とともに、本年度の研修会を締めくくりました。