一般社団法人 北海道まちづくり協議会

特集記事 THE座談会

2020年6月11日(木)

THE 座談会 in 東川町(3)〜東川町の暮らしづくり〜


● 東川町の暮らしづくり〜田舎くさくない田舎暮らし —————————————————

(森) 東川町は轡田さん家族に愛の家を提供することになったわけですね。菊地さんに伺いたいのですが、轡田さんもそうですし、それ以外にもいろんなアーティストとかクラフトマンとか様々な個性の方々が移住されるように力を注いでいらっしゃると聞いておりますけれども、それは、町としては大きな戦略があってやっているのですか。はやりものだったのですか。

(佐々木) 僕も聞きたいです。

(菊地) 移住政策とか移住・定住の政策を他の町よりもお金を出してとかPRしてということは、東川町はそれほどやっていないと思うのです。ただ、基本にあるのは、東川町で暮らしたときに、住みやすい町、住んで良かったと思える町、というところを色々と工夫してやっていたということだと思うのです。
移住者に対する支援策というところでいうと、たとえば轡田さんのようなケースだと起業家支援、起こす業の起業家支援事業というのがあって、対象事業費の3分の1で実際に助成する額が100万円上限という、そんなに多くない金額ですけれども、なるべく多くの方に気軽に使ってもらえることに重きを置いて運用しています。

(森) その申請をするためのハードルは低めに設定はされているのですか。

(菊地) そうです。ですから対象となるものは土地でもいいし、家でもいいし、事務的に使うパソコンでもいいし、その事業に使うものであれば何でもいいよ、というところで、あまり制約を持たない、持たせない、アドバイスも含めて使いやすくなるようにしています。

(森) 結構役所に出す書類は枚数が多かったり、わかりにくい表現があったりしますけど。

(菊地) 一般的にはあとはそれを自分で考えなさいというようなところがあるのですけれども、うちはそういうところをわかりやすくお手伝いするとか、そういうことであまり手間をかけさせない、ハードルを高く感じさせないということを平成15年からやってきています。
それで今までの実績として、昨年度までで100件以上の新たな起業者がその助成制度を受けているということはあると思います。

(森) その100件の方々は、それなりに定着されているのですか。

(菊地) ほとんど定着していると思います。こういうお店が目立っていますが、自分でIT系の会社を起こされたりとか、移住者の方がデザイン関係のお仕事を起こされたりとか、そういうものを含めてあらゆる業種で活用されています。

(森) 轡田さんもそうですが、その方々のいわゆる商圏というか、ターゲットエリアというのはどのように考えていらっしゃるのですか。東川町内だけではそんなに商売にならないでしょう。

(轡田) 私どものは、最初はインターネット販売を中心的にする商材としては成立するものでしたので、そのようなイメージでいたのですけれども。ただ、先程も言ったように東川のブームが重なり、ちょうど私たちは良い形やタイミングで皆様に知っていただけました。SNSなどの効果もあったと思いますし、なにせ景観が素晴らしい場所だったのでSNSスポットみたいな感じで使われる形でお客様がいらっしゃって、そのついでにコーヒーを買ってということで知っていただいたので、意外とこの場所まで来てくださっています。

(森) いわゆる、映え系ですか。

(轡田) そうだったのかもしれないですね。でも、オープン当初からそのような方々も含めて、思った以上に地元の方々にご利用いただく率が多かったのです。どこから知ったのだろうという感覚で。

(森) 菊地さん、他の100件の方々のそういった商売のターゲットというのは、聞いたりすることはありますか。

(菊地) あります。業種によっても色々と違うと思うのですけれども、お店ではない、事務所を構えて自宅の中で個人事業も多いですが、そういう方々はネット環境があればお仕事ができてしまう。東川町の場合は、東京に行くにも旭川空港まで10分の環境なので、その辺のハードルがとても低い。人間として暮らす、生活と仕事を一緒に楽しめるようなところを東川に求めるというような感じですかね。

(森) 確かに空港はとても近いですね。

(菊地) 商圏的にいうと、東川町内の商圏をにらんだのではなくて、仕事や商売をする場というのは自分で範囲をもう持っておられてそこで仕事をする、生活する場、田園ライフを東川に求められたというケースがたぶん多いのではないかと思います。
お店であれば当然お客様が来なければならないわけですから、その部分は、先程も言ったように立地環境は非常に東川は恵まれているということ。旭川市からもお客さんは当然たくさん来ていますし、先程、轡田さんが言ったように意外と東川町民がお店を回ってそこで買い物をしているというようなことも実は起きているということを私たちは聞いています。

(森) 東川町民というのは、どっち系?わりとカッコつける方が多い?自然体?

(菊地) 自然な感じのほうが多いのではないかな。

(森) 新らし物好きというわけでもない。

(菊地) 逆に新しい物を追いかけている人というのは、あまり東川になじまないのではないかなと。極端に新しい物みたいなところの人というのはあまり。

(森) よそ者を拒否するという感覚もないのですか。

(菊地) よそ者を拒否するという感覚は、以前はあったようです。30年前、40年前まで遡ってしまうと思うのですけれども、本当に旧住民、新住民という言葉があって、町内の人が使っていた時期があったのです。よそから来た人と元々住んでいる人たちの軋轢といいますか、意見の相違でぶつかってしまうとかですね。
ただ、ここ20年、25年で半数の町民は入れ替わっているのです。実は、人口8千人ちょっとですけれども、4千人ぐらいはもう東川生まれの方ではないのです。

(森) 旧住民がお隠れあそばしたということですか。

(菊地) そういうことではなくて。

(森) 旧住民の方というか、高齢者が札幌市も都心というか交通や生活の利便性がより高いところに、たとえば厚別区などの周辺部からお引越しをされる傾向があります。だから周辺から旧住民という方々がいなくなるので空き家が札幌市内でもドーナツ状に増えているようですが、同じようにここの町から年配の方々が旭川などに引っ越される。そういうことが起きているのですか。

(菊地) それは当然、その数はそんなに多くはないと思いますけれども、自然減だけ考えても相当うちも多いのです。他の町と同様に農業者やその他の方が高齢になった際に息子さん、娘さんのところに行って住むとか、そういうことで町外に出られる方は当然いますよね。

(森) 離農もされますか。

(菊地) 当然離農は多いです。今でも離農は多い。年に数件は離農していく状況です。

(森) 最も聞きたいポイントですが、サポート体制の中で住みやすい町づくり、つまり人にコストをかけるみたいなところが多いのですか。

(菊地) 人にコストをかけるというのは…。

(森) 移住して来られた方々のサポートです。

(菊地) 人にコストをかけているという意識は、我々職員は感じていない。たぶん自然にやっているのがうちの町だと思うのです。窓口的には定住促進課の中に移住相談窓口がちゃんとあって、まずはそこに相談に行っていただくという仕組みは整えているのですけれども。例えば、そこの職員なども東川町をちょっと知りたいんだという相談があれば、土曜日でも日曜日でも受けるのです。半日普通に、課長だとか職員がつきっきりで案内をしたりとか、そのようなことを普通にやっています。
その窓口だけではなくて、例えば我々だとかその他の職員もそれぞれのつながりの中でそういう相談を受けた場合には、普通にそういう案内もするし対応もする。それがうちの役場のスタンスということで自然に今でき上がっているのです。そういう部分は移住者の方からの評価はいただいているところだと思います。

(森) なるほど、ありがとうございます。
佐々木さん、東川町についていろいろ研究されてきて、今日初めて聞かれたことがあるのですか?私の20倍くらいメモしておられますが。
どうですか、一年間研究されて、そのあとも結構回数いらしていると先程おっしゃっていましたけれども。客観的に見て研究者の視点から改めて東川町に人口が少しずつ増えていくというこの辺りの要因について、研究者の視点でお話いただけますか。

(佐々木) 癖なのです。メモしてしまうのが…。
先程から菊地さんもお話されているのですけれども、旭川市が横にある、車で20分で行けるというのは大きなメリットなのだと思うのです。
先程、商圏の話題が出ていましたけれども、お店の何店舗かに協力していただいてお客さんに対するアンケート調査というのを昨年度やりました。その特性を見ると半数は旭川市の方、4分の1ぐらいが東川町民の方というようなデーターが出てきました。ですので、旭川市があるというのは結構メリットなのかなというところは一つあります。
移住者というところについては、非常に難しいですけれども、景観の話題もあるし、水の話題もあるし、空港から近いという利便性、あとは旭川市が近いという利便性というようなものが非常に複合的に重なって移住が決意されているのだと思います。
その中で全国的な流れとして田園回帰みたいな動きもあって、そういった地方に対する移住というのが全国的にも注目されているというところで、東川町がある種、言い方は悪いですけれども、適度な田舎だったのかなとは思うのです。町長も「適疎」という言葉を使っていたりして、そういった適度な感じが良かったのかなと思っています。

佐々木さんの研究成果プレゼン資料より

(森) 私も現在の東川町は「田舎くさくない田舎」なのかなと感じますね。いかにも肥やしの臭いが漂いそうな田舎と、いわゆる田園風景の違い。田園風景という言葉の中に肥やしの臭いって入ってこないですね。私の概念の中ではね。「適疎」という表現はいいですね。

(佐々木) 適度なのかなというところですね。立地についても、田舎度合いについても、適度であったので、突然本当に肥やしの臭いがするような田舎に都会の人が行ったとしても長続きできる人は少ないと思うのです。それは研究にも色々出てきているのですけれども、そういったところで旭川市に近い、アクセスが便利という適度さがあったのかなというように思います。
また、先程、菊地さんからも職員が希望者に対して町内を案内しているという話がありましたけれども、知り合いが実は東川町に移住しまして、関東から来た人間なのですけれども、その人に対しても土日にも関わらず案内してくれたことに“すごい”とその人は驚いていたのです。そんな町は知らないと。そういうのは東川町のオリジナリティーだし、役場の人たちのポテンシャルの高さなのかなと思います。


次回は“写真という文化によるまちおこし”というテーマで東川町を深掘りしてみます。


《THE座談会in東川町の掲載記事は下記からご覧いただけます》
(1)ゲスト紹介
(2)なぜ、東川町へ向かったのか
(3)東川町の暮らしづくり
(4)写真という文化によるまちおこし
(5)東川町というまちのブランドについて
(6)子育てサポートもブランド力
(7)東川町民のサポートマインド力
(8)まちのジャストサイズ〜現状維持が目標
(最終回)東川スタイルはコミュニティから生まれる