●八剣山エリアを選んだ理由、そしてワインづくりへの挑戦
岡本 それでは、亀和田さんに伺いたいのですけれども、先程のお話の中にもありましたが、自然の流れでこちらの土地を買いましたと説明があったのですけれども、なにかここに決めた理由とかはあるのでしょうか。
亀和田 私は理学部の地質の出なのですけれども、この山がどうも気になってしょうがなかったのです。こんな奇妙な山が北海道に、札幌にある。これにすごく興味があったのです。八剣山トンネルができたのは、2000年なのです。その前は陸の孤島のような、知る人ぞ知るエリアで、多分放っておくとゴミ捨て場か産廃置場とか、そういう形になりかねないという危惧があったのです。
地質的な興味と放っておいたらあかんなという二つが最初の動機で、結果的に、ここにワイナリーをつくることになりました。
岡本 こちらで地質の調査とかもされて、興味があった部分を解明されたのですか。
亀和田 地質調査業関係の協会がありまして、皆で現場研修するとか、研修の結果を全国大会で研究発表するとか、そういう場があったのです。
そういう中でここを地質の研修の場所としてちょうどいいなということで、最初は地質調査のトレーニング場、そういう位置づけだったのです。そこにボーリング孔が掘ってあります。今でもトレーニングで研修の方が来て使っています。豊平川支流の百松沢には堆積岩だとか貫入岩だとか、そういう典型的な露頭があったりして。石山のところに柱状節理があるでしょ。元々この辺りは、エクスカーションというか、地質調査のトレーニングの場所だったのです。個人的にも興味があるし、皆さんの役にも立てるような場所になればいいなと思っていました。
岡本 ワインに興味、ブドウ栽培に着目されたというのは、ここの土地の地質みたいなところが背景にあるのですか。
亀和田 フランスで出版された『ワインの地質』という本を、地質の先輩が翻訳されたのですけれども、そういう地質と風土、風土と味わいの関係。テロワールといいますけれども、それをこの場所でやってみるというのは、後から考えたら意味があったかもしれません。
試験栽培を2006年くらいから始めて、いまも試験圃場で続けています。30種類くらいのワインブドウ品種を栽培していますが、いまだに結論は出ていません。この場所があってこの品種があって、このワインができるんだということを実現したいなと、思っています。
岡本 格好いいです。
新沼さんにも伺っていきたいのですけれども。ワインの話があって、先程の冒頭のお話だと、たまたまタイミングがあってというところで小山先生と亀和田さんのところにビタッときたというようなお話しだったと思うのです。その辺のお話をもう少し詳し目に教えていただけますか。
新沼 最初におそらく亀和田さんと小山先生の間でワインをやろうというお話があったのですよね。
亀和田 はい。小山教授は大学の2年後輩で、一緒にグライダーに乗って飛んでいた仲間です。命をかけて青春を謳歌した仲間。うちは定山渓観光協会の一員で、ときどき出向くのですが、事務所にとても声の良い素敵な女性がいて、その方が、「うちの旦那は亀ちゃんの後輩なんですよ」という話から繋がって、再会し交流しているうちにワイン造りにたどりついたというわけです。
新沼 小山先生は、化学分析とか医学系なので、去年まではワインの成分分析とかをされたりしていました。
亀和田 そうなったら一緒にワインをつくるしかないですよね。
岡本 学園ワインというのができているじゃないですか。あの学園ワインというのはどういうものなのですか。
新沼 ワインの造り方って学生に知っているかと聞くと。だいたい、ブドウを足で踏んで作るといわれるのです。今は全然違うのだよという話しをします。
方法が大きくわけると二つあって。一つは、ブドウの材料に元々付着している酵母という微生物がそのまま発酵するパターン。もう一つは、あとから、パンをつくる時みたいに粉末の酵母をザザザッと入れるようなパターンがあって、どちらもメリットが、いいところがあって。野生酵母は、先程亀和田さんがおっしゃっていたテロワールという点で土地の個性がある。そこでしか造れない味になる。もう一方は粉末の純粋酵母といわれるのですけれども、そちらは、選ばれし酵母なので、狙った味わいを出せる。ソムリエの方の中には、野生酵母より純粋酵母の方がおいしくて素晴らしいワインができるという方が多いのです。さっきのテロワールという観点でいうと、その酵母はどこからきたのか、その土地のものではないことが圧倒的に多い。私は、北海道の自然の中からワインに向いた、おいしいワインがつくれる酵母を選んでこよう。採ってきてそれで実際にワインを造ろうということを一緒にやらせていただいています。
酵母って、実は色々なところに落ちてはいるのですが、人間の中で大谷選手を選ぶくらいの確率です。野球は誰でもできるのだけれども、大谷選手ほどの数は極めて少ないので、それを見極めて選ぶ。そして、実際ワインを造るということをさせていただいています。
学生が何年かかかって、代々の卒業生が頑張って酵母の選抜に関わってくれて、現在では二株かな。白用と赤用と一つずつ選抜できて、それを実際八剣山の方で、これでお願いしますということでワインをつくっていただいています。
学生に自分達でつくった酵母で飲んでごらんと言うと、「世界一おいしいって。このワインは世界一おいしい!」と言っています。
岡本 そうですよね。わかります。わかります。酵母って、野生の酵母をたくさんある中から選抜して、使う時には、先程あった純粋酵母みたいな形で使う形になっているのですか。
新沼 それを選んできたやつを大量バイオして、それをお任せするという感じなのです。
今年も八剣山ワイナリーさんのブドウとか土とかに酵母がついていたりするので、八剣山ワイナリーのワインだから八剣山ワイナリーの敷地で取りたいのです。その土地のということを考えると。夏もお邪魔して学生達とリュックを背負って長靴をはいて、ここでサンプル採りをずっと1,000サンプルくらい採って、背負って帰ってやっていました。
岡本 おもしろいですね。すごいな。それは、ずっと続けていくような感じなのですか。選抜を、代を変えてみたいな。
新沼 八剣山ワイナリー、亀和田さんが、もう嫌だと言わない限りは、是非お願いしたいと思っています。
亀和田 ワインづくりにどの酵母を選ぶかはすごい冒険なのです。
岡本 リスクがありますよね。
亀和田 野生酵母でワイン造りをされる方は、そういうリスクを背負いながらやっているのですけれども。先生方が発見した酵母。普通は実験レベルで10リットルくらい試験的に造ってみるのですが、素晴らしい酵母だったので、思わず社運をかけてみました。
岡本 それは、研究室で醸造したもののテイスティングをしてやるということになるのですか。
亀和田 ここで試験醸造したものをここで皆さんとテイスティングして、それが良かったということです。