●ワインづくりを通して学生たちが得られるもの
岡本 新沼先生、最近の学生たちは飲むのですか。
新沼 そうですね、できた物に対してテイスティングをする際、候補の酵母を使って醸造を八剣山さんで、スモールスケールでやっていただいた後にどの酵母がいいのかを実際飲んで試すのです。正直、飲み慣れていない人が多くて、学生だけでテイスティングすると、フルーティーな、ジュースに近いような物を選ぼうとしてしまうのです。
うちの研究室に入ってくる子は、本当に1年生からワインの研究がしたいという人がいて。そういう子は、成人して、お酒を飲めるようになってからですけれども、ワインのテイスティングを勉強しながら入ってきてくれる人もいます。他の研究室からもテイスティングだけしたいという申し出があったりするのです。
ただ、最終的に酵母を選抜する時は、亀和田社長だったり松尾さんとか、八剣山のスタッフの方に飲んでいただいて、最終的にこれというのをみていただくのです。さすがプロは違うなというか、コメントのシートを書いていただく時に、これには乳酸の風味が含まれると書いていて。でも、私達にはわからないし、そんな味がしたかなと思って、今野先生がいらっしゃる時に科学分析していただいたら、僅かに乳酸が含まれていて、さすがプロだと思いました。
話を戻しますが、学生は、飲む人は少なくはなっているイメージなのですけれども、熱い気持ちを持っている学生はすごく多いです。
岡本 ワインに関係するような職場というか、ワインにというのも変ですけれども、酵母と関係するような職場を選んでいく学生もいるのですか。
新沼 発酵なのでワインも。発酵食品というか、味噌とかもそうなのですけれども、そういった分野にいく人がいます。
岡本 すごくためになったという感じなのですかね。
新沼 そうですね。面接の時に「やっています」というふうに言えるといっていました。
岡本 うちのゼミもそうですね。「現場に入って建物をいじっています」と言ったら、すごい光って映るみたいだという話をされますね。
できたワインを家の人に飲んでもらってとか、周りの人にも配ってみたいな、そういうところから地域の中に八剣山ワインが広がっていくみたいな空気はあるのですか。
新沼 置いていただいているお店に行ったりすると、本当に、毎年卒業生が買っていくという話しがあったり。地域の広がりかなと感じます。
話しは違うかもしれないですけれども、授業をする時に大学の使命、研究と教育で2008年くらいに文科省が3つ目の使命として社会貢献をあげていて、その中に地域貢献が含まれるのです。
授業の中で、いま勉強していることを社会に貢献するように使いなさい。考えなさい。こういうことに使えるのだよといくら言っても、やはりピンとこないというか他人事みたいな感じで受け取る学生がいる中で、実際に、君達の先輩が自分達で研究したものが商品化されて市販化されて、これだよと見せて言うと。本当に役に立つんだ。俺達もできるかもしれない。じゃあ、地域の何といま勉強していることを組み合わせたら自分達にそれができるのだろう、ということを考えるステージに入ってきた学生が増えてきて。そういう意味で、アウトプットが見える。
亀和田さんがさっきおっしゃっていたようなアウトプットするところが見えて、何に役に立つかという事例があると、自分達もできるかもと考えはじめてくれているということはすごく学生の中の変化かなというふうに思います。
岡本 すごいですね。 とても将来が楽しみになりますよね。やりたいことがどんなふうにやったらどんなふうに伝わっていく、広がっていくというのはすごく貴重な見え方というか切っ掛けですよね。後押ししてくれますよね。
新沼 知識とか技術はもちろん大人というか教員の方が持っているから教えているのですけれども、パワーと想像力に関しては若者の方がうんと上なので、それを出せる場所が周りに、地域にあるということはすごくありがたいことだなと思っています。
岡本 確かにそうですね。
濱本さんは、どういう分野を卒業されて今に至っているのですか。
濱本 僕は、デザイン、元々建築の高専にいて、そこからデザイン学を学んで大学院まで出たのです。まさにお話をお伺いしている中で、僕は、コロナ禍は大学院生だったのです。コロナ禍の時にまちづくりをしたいけれども何をすればいいかわからないという人が山ほどいて、まさにパワーはあるけれども切っ掛けがない状態の人がいっぱいいました。僕も学生の時にその人達のやりたいことを見つけるイベントをやったことがありました。今回のようなツールがあるということは、学生だった気持ちを思い出して、切っ掛けがあってなにか進められるものが、しかも実際にできるものがあるということ、自分のやりたいことを実現できているという学生が実感を持てるような仕組みになっていて、地域づくりと学生の勉強とか研究という意味でもすごくいいなというふうに思いました。
岡本 そうですよね。
亀和田さんに、伺いたいのですけれども。今、学生の話しが出てきて、フィールドワークで実際に来たりするというお話がありました。学生達がここの敷地にきて活動している様子を通じてなにかこちらのワイナリーの皆さんの動き方とか考え方とか話題とか、変わったものはなにかあるのですか。
亀和田 北海学園大工学部から230号線をグルッと下ってくるとここに来るのですけれども、そういう中で学生さんが色々とやっていらっしゃって、それなりに毎年卒論とかレポートが出てくるということで、私どもも惰性ではなく、きちんと背筋を伸ばして科学的にものを考えなければいけないというような意識は出てきていますね。
特にサニタリーの問題。いわゆる雑菌がいるとワインは非常にあっという間に品質が落ちるのです。そういう問題のご指摘もあり、いかに外から雑菌を持ち込まない動線にするか。サニタリーの洗剤、殺菌剤、そういったものを先生方に紹介していただきました。
岡本 大学の学生の関わりもあるし先生方の関わりもより商品というか製品の向上に繋がっているということなのですね。
亀和田 私ども民間が学園さんと一緒に活動して、とにかく目先の、やらなければいけない課題についてもソリュージョンを出していこうという、そういうことでもご協力をいただいています。
新沼 先程、商品化にあたって亀和田さんがおっしゃっていた酵母を変えるということはすごい賭けなのです。そういう研究をされているところ、実は酵母を探すというのは日本全国にあるのです。では、商品化して継続して出し続けているというところはほとんどない。
亀和田 ないでしょうね。
新沼 それは、その賭けをしたくない、八剣山ワイナリーさんしかいなくて、うちが学園ワインをつくれたのは、本当に亀和田さんが「これならいけるからやろう」と言ってくださって。
最初の年、それでも、これくらいの量かなと思っていた量の5倍くらいの量で仕込みがはじまって、いいのですかと思っていたけれども。出来上がったらすごく美味しかったので、さすがプロは違うなと思って、本当に感謝しています。
亀和田 それを学園の中で買って下さる仕組みをつくった、同窓会でつかったとか、そういう消費の方のバックアップもあるということなのです、ワインを造るだけではなくてね。
vol.5につづく
THE座談会in 八剣山「地域づくり」そして「食と観光」 vol.1
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