一般社団法人 北海道まちづくり協議会

特集記事 THE座談会

2020年8月4日(火)

THE 座談会 in 東川町(8)〜まちのジャストサイズ〜現状維持が目標〜


● まちのジャストサイズ、現状維持が目標 —————————————————

(菊地) 町では独自な教育も取り入れてやっています。文科省の認可を受けているGlobeという教科を独自で設けて、コミュニティ教育や国際理解教育ということを含めてやっていたりするので、結構そこは特色になってきていると思います。
それと、人口のこと。思っていたのは、人口がどこまで増やすことがいいのかという質問がありましたよね。

(森) 東川町は人口が緩やかな横這い、20年のスパンで見ると微増という感じですが、では東川町のジャストサイズと言ったらいいのか、人口何万人という具合に数をイメージをされることはありますか。役場の中での議論とかでも。

(菊地) よく聞かれるのです。外から視察に来た方とかが人口が増えているまちということを当然知って来られて、「東川町はどこを目指しているんですか」と聞かれることがあるのです。
我々職員とか町長を含めて言うのは「このままです」現状維持。8,000人程度を維持するというのが東川町にとって一番あっているのではないかという言い方をしています。
逆にいうと、少子高齢化で全国的に人口が伸びない中で、放っておいたら自然減で下がっていくわけです。その中で自然減を補う社会増の対策を打って8,000人を維持していくというところがすごく難しいと思うのです。東川町にとって。

(森) 財政的にも8,000人というのは、いい大きさなのですか。

(菊地) 東川町の財政面とか、そういう観点ですか。8,000人がいいのかというと、財政的にいうと小さいと思います。ただ、東川町の今の環境を崩さずに住んでいる人が幸せに生活し続けることを考えると、8,000人程度ではないかなという気がします。それ以上増やそうとすると新たに宅地造成しないといけなくなったり、農地を潰さなければならないということが発生するので、そこまでする必要はないのではないかと思います。

(森) 万単位というのはイメージの外側にあるという感じなのですね。一万人を超えるということは。

(菊地) そんなことは夢にも思ったことないです。一万人なんて、これから2,000人増えるなんてあり得ないと思います。

(森) 一時期、都市計画を立てる時にどの町も人口増で計画を立てましたから。北海道全体でいったら500万人が1,000万人になる?という時期がありましたね。今はみんな減らしているけれども。現状維持というのは。

(菊地) 現状維持で考えて色々あります。例えば、出生率を上げたら、住んでいる人の出生率を上げたら人口維持に繋がるとか。

(森) 出生率で現状維持というのは、いってみれば底辺を常に若返らせていく必要があるから努力が大変ですよね。

(菊地) 間違いなく色々な政策をやれば済むということではなくて、住んだ人が考えて成り立つことですから出生率は。東川町のように環境が良くて移住してくれる町に住んだ人達の中で出生率があがるということは住みやすいまちとか子育てしやすいまちという。

(森) 子育て、子供の数を増やすことは難しいですね。教育費も年々上がっていますし、それと他との競争があまりにも激しくなるとそこに必要のないコストを更にかけないと不安が不安を呼んでどんどんみんなお金をかけ、歩留まりがわからなくなってくる。そんな感じの中で子供を育てる不安というものがあると思います。首都圏などでは特に若い世代は不安で、子供を持たない夫婦がどんどん増えていっているという。
それが東川町では、轡田さんのお話しによると、競争意識というよりも、自分の価値観とか自分が成長していく意識みたいなところが自然に芽生えているのだとすると。

(菊地) 子育てしているというだけの認識だけではなくて、一人の女性や男性、人というバランスの良い考え方を持っている方が多くて、たまたま子供が5人いましたとか、4人いましたとか。働きながら子育てしていますというようなことを主張される方がたくさんいらっしゃって良い感覚なのかなと思うのです。

(轡田) 無理しているというよりもちょっと頑張っているという感じなのかな。

(森) うちの近所の知り合いで、四十代の方かな子供が4人いるんだよね。内心、「えっ、また子供生むの、4人の教育費大丈夫?」と思うんだけれども、当人はケロッとできちゃったしって。

(轡田) そういう大丈夫かな的な感覚はみなさん全然なくて、逞しいです。だから「紗世ちゃん二人目は?」と普通に、モラハラになるような事を言う方もいますが…、「今の私の環境を見て判断してください」と言ったら「無理だね」とわれます。強要もされず、ほど良い感覚で子育てを楽しんでみなさんやっているのかと思います。でも、みなさん小洒落れているんです。

(森) 誰が、大人が?

(轡田) 大人も子供も、みんな。昔の昭和の子沢山の家族のイメージというよりか、お母さんもトレンドをちゃんと捉えていて、東川町のお母さん達と子ども迎えに行くとファッションショーのような感じでちゃんと着飾って。

(森) 映え系の方が多い?

(轡田) おしゃれなお母さんだなという。

(菊地) 子育てしているというだけの認識だけではなくて、一人の女性や男性、人というバランスの良い考え方を持っている方が多くて、たまたま子供が5人いましたとか、4人いましたとか。働きながら子育てしていますというようなことを主張される方がたくさんいらっしゃって良い感覚なのかなと思うのです。

(轡田) 自然体のおしゃれで、子供もカッコよく、ブランドというか自分のオリジナルが。

(森) 日常が?

(轡田) ちゃんとして行かなきゃって毎日。

(森) SNSにみんなアップしたりしているのかしら、そういったものを。

(轡田) 東川だからこそ、本当に私もそうだったのですけれども、買い物に行くというよりかはアマゾンだったりネット通販やアプリ、そういうもので情報をとるのが非常に上手な方が多くて、有効的にそういう、もちろん東川町にお金を落とすという意識の多い方もいらっしゃいますけれども、でも、安い物は逆にそういうふうな形で買える場所はネット利用という感じ。

(森) 札幌市民もアマゾン、通販、ネットオークション、普通に使っていますよ。

(轡田) あとは物々交換じゃないですけれども、大根をもらったらこれをというような感じだったり。本当に独自通貨ではないですけれどもお互いの生活環境に見合ったもの提供し合うという。

(森) 菊地さんが人口8,000人くらいがジャストとおっしゃっていましたが、住んでいる人たちはどうなのでしょう。もっと発展して大きくなったほうがいいというような。

(菊地) そんな話はあまり聞こえてこないです。自分たちの生活がちょうど良い環境で生活できることを大切にしたいという声の方が多いと思います。例えば、お店をやっている人でも東川町が外にどんどん発信されてメディアで取り上げられるようになったり、色々新しいことをまたやろうとした時に、「もういいんじゃないやらなくても。また人が来ちゃったら大変だよ」とか、そういう声が聞こえてくるのです。観光客が大型バスで乗り付けてここに来るとか、そんなことは誰も望んでいないというか。

(轡田) うちはたまに来るけど。

(菊地) 度々来たら困りますよね。

(森) ご近所の目を気にしちゃう?

(轡田) 毎日セキュリティーをしっかりしてもらってます。「あのバスはどこから来たんだ」っておじさんが即効来ますから。「あれはどこ系だ」と言うから、「蛍を見る会のおじいちゃんとおばあちゃん達が来たんだ」とか「役場の人達が連れてきてくれた」とか。本当にセコムばっかり、うちは。「お前たち、3日くらいいなかったけれども、どこに行ってたんだ」「東京出張だった」「そうか。誰も来ていなかったぞ」とか「3台くらい車が来ていたぞ」とか教えてくれます。

(森) 私達も町民セコムの目線に引っ掛かっていたかもしれない。この間、旭川のお店にお邪魔したでしょう。その前にここをチェックして写真撮影してた時に、おじさんが見ていたかもしれない。

(轡田) その報酬がソフトクリームなのです。

(森) 住民の方々も今くらいの暮らしスタイルが自分達には合っているのでしょうか。

(菊地) 今の東川が良くて来ているのだと思うのです。

(森) 入れ替わった新しい世代の人も今の東川のサイズ感が良いと思っている。

(菊地) そうだと思います。

(森) そういうことも含めた現状維持というのは、結構意識してやっていかないと。

(菊地) 先程も言ったように現状維持することが難しいわけであって、私達の考え方は、定住人口8,000人で、あとは交流人口だったり関係人口というものがそこにプラスされることによって定住人口8,000人が守られるというか、維持できる環境づくりができているのではないかという気がするのです。外との繋がりとか行き来というものは、どんどんやりましょう。そこで応援してくれる人も含めて応援人口にカウントできれば、効果としては1万人以上のまちとして成り立つような営みができるかもしれません。

(森) 交流人口・応援人口含めると1万人以上という感じ。

(菊地) そうですね。

(森) どれくらいなのでしょうね。今までの交流人口は、延べにしたら結構な数ですね。

(菊地) うちは、株主制度で株主を発行して、それが株主さんで、いわゆる交流人口であり関係人口といっているのです。今、38,000人いるのです。

(森) 結構な数になっていますね。

(菊地) 最初は3,000人を目指しましょうといって2008年にはじまったのに、今は38,000人。いわゆるふるさと納税に寄付してくれた人の数なのです。

(森) レギュラーさんですか。

(菊地) リピーターが多いと思います。他の町より。そこを大事にすることは非常に大切だと思います。

(森) 企業とのコラボとか、国際的な交流を町としても積極的にやっていると聞いていますが、その辺は、先程あった交流人口なり応援人口を増やしていこうというところですか。

(菊地) 正にそう言うことです。何のためにやっているかと言うと、全て住んでいる町民のために何をしなければならないかであって、住んでいる町民が幸せになることのためにどうするかという色々なアイディアと政策の中に国際交流事業があったり、企業との連携事業がある。全ては後々町民に返って来ることだと思います。

(森) 町民の幸せになることって、どんな感じのことなのだろう。

(菊地) 私、偉そうなことを言っていますね。町民の幸せって、それぞれ幸せは違いますよね。安心して暮らせられれば幸せと思う人もいるし、子供達の教育が充実して子供達が健やかに成長することが幸せだと思う町民もいる。経済的に何も心配なく生活できれば幸せだと思う人がいる。そういうことを含めて、それぞれがの営みができるような後押しを町ができれば町民は幸せになるわけであって、そのために何をするかということ。当然、福祉政策、子育て環境をしっかり整えるのは当たり前のことかもしれないけれども。

(森) そういう細かなことを読み取るというのが、自主的ブラックに繋がるのですね。

(佐々木) それができているから東川町。

(菊地) 私に限らず職員がそれを考えられているから立ち止まることなくやれていると思うのです。

(森) 世話好きというか、お節介な方が多い。住民セキュリティもそうだけれども。

(菊地) お節介なのは間違いないですね。

(轡田) 本当に学級委員長のような感じの方々が多くて、ここに越してきた時に「住民が何世帯あるから、そこに全部引っ越しのご挨拶に行くぞ」っておじさんが来てくれて。

(森) 仕切ってくれるおじさんがいるんだ。

(轡田)  建築段階の時も毎日見に来てくれて、ここはこうやった、ああやったと言って報告してくれたり、「お前のうちは餅まきしないのか」と言うから「しないです」とか。「そうか、神様入れたか」「入れました」という先々と色々教えてくれる方々がいるということを受け止めるということも大事なことなんだなと思います。最初は、嫌だなという印象でしたが…。年収聞かれましたもの。旦那の年収はいくらだと聞かれて、どれくらいの規模の会社に勤めていて、どっちに向って出勤してるんだと言うから、クイズ形式にして答えてみたりとか。親父は生きているのか。勤め人かどうかとか、そういう背景も全部聞かれたりということもあったのですけれども、今は逆に、うちの場合は「東川町を支えるお店として俺は自慢しているからな」と言ってくれたり。

(森) そのおじさんは、品定めをしているのではなくて、その人のプロフィールを単純に把握しておこうというつもりだったのかもしれないですね。

(轡田) 次の時には隣のおじさんは知っているし、その次の時はもっと隣のおじさんは知っているという。だから、うちのことはだいだい知っていて、あそこは今日バスが何台停まったということも知っているから、例えば買い物に行ったりすると「昨日バスがきていたんだってね」という言葉をかけられることもあるので。

(森) そういうお節介といえばお節介なのだけれども、それが5年の間にこんなに距離が縮まっていくという促進効果になっているのでしょうね。

(轡田) 私も今婦人部長をさせてもらっています。

(森) そのうち聞くかも、「年収いくらなの」って。

(轡田) そこまで心臓は強くないです。


次回9回目は“東川スタイルはコミュニティから生まれる”です。


《THE座談会in東川町の掲載記事は下記からご覧いただけます》
(1)ゲスト紹介
(2)なぜ、東川町へ向かったのか
(3)東川町の暮らしづくり
(4)写真という文化によるまちおこし
(5)東川町というまちのブランドについて
(6)子育てサポートもブランド力
(7)東川町民のサポートマインド力
(8)まちのジャストサイズ〜現状維持が目標
(最終回)東川スタイルはコミュニティから生まれる